|
||
1987年にアメリカのフランシーン・シャピロが発見し、1989年に治療法を体系化し発表した新しくて効果の高い心理治療法です。(EMDR:Eye Movement Desensitization & Reprocessing の略です。「眼球運動による脱感作と再処理法」と訳されています。)日本では1992年に初めて学会で紹介されました。1996年ネットワークが設立され、その後、日本EMDR学会に発展、評価が高まっています。 (当研究所では、すでに600セッションを超える経験を積んでいます。) |
|
|||
@ | 眼球運動やタッピングなど(両側性刺激)の新たな手法を採用して、より高い効果を実現しています。 | ||
A | 心の傷(トラウマ、大きなストレス)に直接関与し、一回一回の面 接でそれを癒し、解消していくという方法を用いています。それ故、従来の治療法よりクライエントの方々が手応えを感じることが多いように見受けられます。(但しストレスの大きな体験を思い出すので、エネルギーはかなり使います) |
||
B | 苦痛で不快な感情にも必ず焦点を当て、その軽減をはかります。 | ||
C | 心の問題は常に身体的なところにも現れます。そういう身体的な面にも細かく治療的に働きかけ、心身両面からの癒しを実現していきます。 | ||
D | 肯定的、否定的(自己)認知という側面を、つらかった体験ごとに必ず取り扱い、物事のとらえ方考え方をも改善していきます。 | ||
E | 一回一回ができるだけ快く、肯定的に終わるように治療計画されています。 | ||
F | 治療期間が伝統的な治療法と比べて短くて済むようです。今の印象からすると、少なくとも三分の一くらいには短縮されます。 | ||
G | 過去、現在、未来に対して治療的に働きかけるので、治療効果が高く、しかも長続きします。 | ||
H | 他の治療法との比較、効果の程度と持続性に関して、厳密な研究よって実証されています。 ・Van Etten M., & Taylor, S.(1998). Comparative efficacy of treatments for post-traumatic stress disorder: A meta-analysis. Clinical Psychology and Psychotherapy, 5, 126‐144. (この研究では、トラウマの治療において、薬物療法に比べ、EMDRと行動療法が優れていることが証明されました。EMDRは、3分の1の治療期間で効果がある点、行動療法より効率的だったということです) ・Edmond,T., Rubin,A..,& Wambach, K.(1999).The effectiveness of EMDR with adult female survivors of childhood sexual abuse. Social Work Research, 23, 103-116. (この効果研究では、児童期性虐待の女性サバイバーの治療において、EMDRは、3ヶ月後のフォローアップで、4つの効果測定値すべてにおいて通常治療より改善が認められました。18ヶ月のフォローアップでも、すべての測定値において改善が見られました。) 他にも多数の論文があります。 |
||
I | このような研究と実績によって、効果が高いことが国際的に認められています。例えば、米国国防省および退役軍人局の新しいガイドラインでは、EMDRが、最も実証された治療法として、心的外傷(トラウマ)の治療に推奨されています。また、イスラエルの国立精神保健審議会は、テロ被害者の治療に望ましい3つの治療法のうちの一つにEMDRを認定しました。さらに、国際トラウマティック・ストレス学会は、EMDRを有効なトラウマ治療法として認めています。また、イギリス健康省は、最も有効性が実証された3つの治療法のうちの一つに、EMDRを挙げています。その他、フランス、オランダ、スエーデンなどでも同じように認められています。(H、Iの情報は、フランシーヌ・シャピロ、マーゴット・シルク著、市井監訳「トラウマからの解放:EMDR」を参照しています。) | ||
J | さらに、WHOが2013年に「トラウマに焦点を当てたEMDRと認知行動療法は、児童、青年、成人のPTSDクライエントに推奨される。・・・認知行動療法とは違い、EMDRは、トラウマの詳細を語る必要はなく、またトラウマに長時間さらされることもなく、直接的に認知を変更させることもなく、施行される。」とする見解を発表しました。これは、PTSDに対してEMDRが認知行動療法と同様に効果が高い上に、クライエントの精神的負担が少なくて済む、ということを示唆しています。 |
EMDRのQ&A | |
Q1 | トラウマというのはどういうことを言うのでしょうか? |
A1 | 誰もが使う日常語としてのトラウマは、人の言葉が胸に刺さったり、怒鳴られて不快な感情が残ったり、失敗して自尊心が失われたりして、心が傷ついたときに使います。EMDRでは、これを小さなtと呼んでいます。 それに対して、医師によって診断されるトラウマというのは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のことです。これは、死に直面したときに感じる恐怖体験、あるいはそれに匹敵するくらいに身の安全が脅かされる不安体験のことです。 EMDRではこれを大きなTと呼んでいます。 この「死に直面した時に感じる恐怖」(PTSD,大きなT)というのは、地震、事故はもちろんのこと、拉致監禁、人に殴打されること、継続的な心理的攻撃、性的弄び、性的攻撃などによっても起こり得ます。 ただ、恐怖、不安というのは主観的なものなので、通常なら小さなtと言えそうなことでも、ある人にとっては、大きなTになる場合もあり、また、過去に大きなTを経験している人は、それに関連するわずかな刺激(通常なら小さなt)によっても、大きなTを体験することもあります。 |
Q2 | EMDRはその小さなtと大きなTのどちらに使うのでしょうか? |
A2 | EMDRは、もともと小さなtによって起こった不快な感情を解消できたことで発見されました。そこから、PTSDと診断されるような大きなTにも有効だろうかということで臨床応用され、効果があることが判明し、発展してきたものです。したがって、EMDRは、当然様々な日常的なストレスによる不快感情(小さなt)にも対処できますし、臨床応用にはかなりの広がりがあります。 ただ、EMDRの真骨頂は、他の伝統的な治療法では時間がかかり、難しいとされる心的外傷後ストレス障害(PTSD)や心的外傷に基づく様々な心の変調の治療に迅速かつ大きな貢献ができるところにあると言えるでしょう。 |
Q3 | 認知行動療法(暴露療法)も、PTSDに効果があると言われていますが? |
A3 | その事は、上のH、Jで述べている通りです。効果は同程度と認められおり、その上、EMDRの方が、期間が短くて済み、クライエントの精神的負担も少なくて済むということが言えると思います。 但し、トラウマとは直接関係のない強迫性障害のような場合は、認知行動療法(暴露療法)がより有効なようです。 |